こんにちは。修繕の寅さんの渡邊です。
一般の方にはあまり知れ渡っていませんが、2022年(令和4年)4月1日以降に着工する解体・改修工事を対象に、石綿(アスベスト)レベル3建材の石綿事前調査結果を報告することが義務付けされました。石綿事前調査結果の報告義務は一定規模以上の工事に限りますが、事前調査自体は原則全ての解体・改修工事に必要です。
戸建住宅の屋根葺き替え工事はほとんどが対象となりますので、以下で内容を説明していきます。
(注)屋根工事業者のブログなのでレベル3建材だけを対象としております。
石綿(アスベスト)の基礎知識
石綿(アスベスト)とは?
石綿(アスベスト)はニュースなどで聞いたことがあるかもしれませんが、肺がんや中皮腫を引き起こす可能性がある建材原料です。特殊な石を細かく砕いたモノで繊維状になっており、少量であれば吸引しても肺の機能で外に排出されますが、大量に吸い込むと肺の中に沈着してしまいます。
有毒性が確認されてから段階的に、含有比率を基準に法規制が行われました。
・1975年(昭和50年)含有率5重量%超え
・1995年(平成7年)含有率1重量%超え
・2006年(平成18年)含有率0.1重量%超え
令和4年からするとたった16年前でして、屋根の葺き替え(解体)や改修は築20年前後に検討されることが多く、ほとんどの物件に石綿(アスベスト)含有建材が使用されている可能性があるということです。
石綿(アスベスト)含有建材の種類とは?
建築物に使用されている石綿(アスベスト)はレベル1~3に区別されています。レベル1が一番危険なモノでレベル2、レベル3と危険度は低くなります。処理方法(石綿対策)についてもレベル1が一番大変で、レベル3は比較的簡単に対処できます。
レベル1|吹き付け材
石綿含有率70%近くあるモノもあり、とても有毒性の高いモノをレベル1と区分しています。多くは耐火や吸音、結露防止として利用されていて、ビルや商業施設など大型の建物に吹き付けされていました。モコモコと泡を固めたような見た目をしています。
レベル2|断熱材、保温材、耐火被覆材
吹き付け材の代わりに板状に成形した耐火被覆板や、フェルト状になった断熱材・保温材や、内装仕上げに使用されていた塗材などがレベル2に該当します。鉄骨造の柱や梁に耐火被覆として利用されたり、ボイラーや空調ダクトの保温材として利用されていました。
レベル3|石綿含有成形板
レベル3は少量の石綿をセメントで固めた成形板となります。石綿は繊維状をしており、成形板の強度を増す効果があります。レベル3建材にはとても多くの種類があり、屋根材や壁材、床材など多岐に渡り使用されてきました。
レベル3建材はセメントで固めた材料となる為、普段の生活でレベル3建材から石綿が大気に浮遊することはありませんのでご安心下さい。但し削り取ったり、割ったり、穴をこじ開けたりすると細かい粉となり浮遊してしまう為、解体、改修の作業方法に注意が必要となります。
一般戸建住宅において対象となる石綿はレベル3建材となります。
戸建住宅屋根に多いレベル3建材とは?
屋根材には粘土瓦やセメント瓦、薄型化粧スレート、アスファルトシングル、金属屋根材など色々な種類があります。石綿(アスベスト)が含有していることがわかっている屋根材で一番多いのが薄型化粧スレートになります。
※屋根材の種類はコチラの記事で紹介しています⇒【必見】100年企業が伝授!屋根リフォーム・修理工事を依頼する前に知っておきたいコト
旧クボタが1961年から発売開始した「カラーベストコロニアル」、旧松下電工が1971年から発売開始した「フルベスト」が薄型化粧スレートにあたります。2003年にこの2社は統合しクボタ松下電工外装㈱となりましたが、2010年に社名変更し現在のケイミュー㈱となっています。
発売当初1961年~2003年まで石綿(アスベスト)が入った薄型化粧スレートを製造していました。2004年以降は石綿の代替としてパルプ繊維他を使用し石綿未使用のカラーベストへと生まれ変わりました。但し切り替え当初のコロニアルNEOやレサス、ワンダなどは石綿(アスベスト)が入っていない分、強度が低く割れやすい印象があります。
ケイミュー㈱のホームページで石綿(アスベスト)含有品と非含有品の一覧が公開されています。
その他には、積水化学工業㈱が製造していたセキスイかわらUにもアスベストが含有されています。製造時期は1975年~1990年となります。以後は無石綿のかわらU、CITY、Brook、S、メタルなどを製造販売していましたが、2013年に屋根事業から撤退されました。
世の中に多く流通していた石綿(アスベスト)含有屋根材は上記2社が大半を占めていましたが、その他にも屋根材メーカーは存在します。国土交通省の石綿(アスベスト)含有建材データベースで検索が可能となります。
(但し、このデータベースは屋根材メーカーが提供した製造データを基に作成されているので、石綿含有の証明になりますが、データベースに載っていない屋根材が無石綿であるという証明にはなりません。)
明らかにアスベストが含まれない建材として国土交通省の石綿(アスベスト)含有建材データベース内にアスベスト非含有建材というものがあり、粘土瓦は石綿(アスベスト)非含有建材として登録されています。
石綿(アスベスト)含有建材事前調査
事前調査結果の報告が必要となる規模は?
- 建築物の解体工事(解体作業対象の床面積の合計80 ㎡以上)
- 建築物の改修工事(請負代金の合計額100万円以上(税込))
- 工作物の解体・改修工事(請負代金の合計額100万円以上(税込)
上記の条件が該当する場合は、事前調査報告が必要となります。2番目にある建築物の改修工事(請負代金の合計額100万円以上(税込))ですが、附帯する工事も対象となる為、ほとんどの屋根葺き替え工事がこの条件に該当してきます。
例えば、以下のように解体工事は30万円であっても、一貫した屋根工事全体の金額合計は130万円となり、事前調査結果の報告が必要となります。また契約を分けても駄目とのことです。
※但し、事前調査費は除外されます。
既存屋根材解体工事 | 30万円 |
処分費 | 20万円 |
野地板修繕 | 20万円 |
新屋根材施工 | 40万円 |
足場工事 | 20万円 |
また勘違いしてはいけないのが、上記条件に該当しなくても解体、改修が伴う場合は事前調査自体は必要です。ただ報告する必要がないだけです。
事前調査で石綿(アスベスト)含有を判断する流れ
築年数から石綿(アスベスト)含有を予測
上記したように2004年より後は薄型化粧スレートにアスベストを使用していないので、非含有と予測されます。逆に言うと以前に建てられた建物にはアスベストが入っている可能性が高いことになります。
2000年頃からノンアスベスト屋根材も製造されており、2000年~2004年頃に建てられた家の屋根材は判断が難しく、目視しないとわからないことが多いです。
建物の図面を確認
図面には使用された屋根材の記載があるので、その名称から石綿(アスベスト)が入っているか確認します。但し詳しい商品名が書かれていないことや、建築途中で使用屋根材が変更されることもよくあり、図面だけでは確定させることが出来ません。必ず図面記載通りの屋根材かどうか目視確認が必要となります。
お施主様から聞き取り
図面が無いってこともよくあります。そんな時はお施主様から建築時期の聞き取りをします。その時に改修したことがあるかどうかを聞くことも大事です。古いカラーベストの上に金属屋根材でカバー(被せ葺き)していると、見た目では確認できず解体作業を開始して気付くことがあります。そうなると作業がストップしますし、工事料金や処分費が追加発生してしまいますので要注意です。
屋根に上がり現物を目視確認
屋根に上がり屋根材現物を目視確認します。屋根材の形状でカラーベストはほとんどが特定できます。形状による判断が難しい場合は1枚カラーベストを引き抜いて裏側を見ると「a」マークが入っていることがあります。その場合はアスベストが入っているということになります。
この「a]マークは1989年以降に付けられるようになったものであり、製造メーカーが自主的に付けていたので、「a」マークがないからといって無石綿であるということにはなりません。
石綿(アスベスト)が入っていないことの証明方法
原材料に石綿(アスベスト)が必要ない屋根材
粘土瓦や金属屋根材は原材料に石綿(アスベスト)が必要ない屋根材なので、事前調査報告の必要がありません。
※但し金属屋根材の裏張り断熱にアスベスト含有している場合があるので注意が必要。
製造メーカーの石綿(アスベスト)非含有証明書
使用されている屋根材を特定して製造メーカーの石綿(アスベスト)非含有証明書を発行してもらうことで証明となります。
分析機関による石綿分析
使用されている屋根材が特定できない場合や、製造メーカーが倒産しているなど非含有の証明が不可能な場合は、成分分析を行う必要があります。分析には屋根材を一部カットしてサンプリングを分析機関に送る必要があり、カットした部分は防水テープやコーキングなどで仮補修することになります。石綿分析を行う際は分析費用が発生します。
但し石綿分析を行わずに「石綿が入っているであろう」とみなして報告するこも可能です。
例えば、築30年の家でどこのメーカーかわからない薄型化粧スレートが葺かれているなどの場合は高確率で石綿が含まれているので、石綿分析をしないで石綿が入っているとみなして、石綿含有建材の解体作業を行う方法です。
事前調査結果報告は誰が行う?
上記の方法により解体・改修現場に石綿(アスベスト)が「有」「みなし」「無」と判断し、国へ報告するのは元請業者(お施主様と請負契約を結ぶ者)の義務となります。
気を付けないといけないのはお施主様にも大気汚染防止法で石綿の事前調査に協力(費用負担、設計図書の提供など)すること、施工者に対して施工方法、工期、工事費等について作業基準の遵守を妨げる条件を付さないよう配慮すること、と義務があります。
石綿(アスベスト)が入っている屋根材を撤去する為には、引き抜く釘の廻りを霧吹き機で湿潤化させたり、専用の呼吸器を付けたり、近隣へ飛散しないように配慮をしたり、と無石綿の屋根材を撤去するより工事費が高くなったり工期が長くなったりします。これらを安く済ます為に作業の簡略を強要すると罰せられることがあるとのことです。
有りがちなのが、アスベストが含まれているのがわかっているのに、A社はアスベスト対策込みの高い見積、B社はアスベスト対策無しで安い見積。安いのでB社に発注して、アスベストを大気に飛散させてしまうような工事内容であった場合、B社が罰せられるのは当然ですが、発注をしたお施主様にも責任があるということです。業者選びは慎重に行う必要があります。
石綿(アスベスト)に関わる資格と特別教育
建築物石綿含有建材調査者(特定/一般/一戸建て)
石綿(アスベスト)の調査をする為の資格となります。2022年現在では資格が無くても事前調査が出来ますが、2023年の10月1日以降は事前調査を行うには建築物石綿含有建材調査者資格が必要になります。
石綿作業主任者
石綿解体・改修現場には石綿作業主任者技能講習を修了した者が必ず1名現場に必要となります。
石綿取扱い作業従事者特別教育
石綿解体・改修作業を行う者は必ず特別教育を受ける必要があります。特別教育を受けていない者は作業をすることが出来ません。
石綿(アスベスト)レベル3建材の除去作業
解体(めくり)作業
前述したようにレベル3建材はセメントなどで固められたものなので、割れたり破損しない限り飛散する恐れはありません。なので留め付けている釘を一本一本引き抜き、原形のままで丁寧に手剥がしします。
釘を抜く時に釘穴から飛散する可能性があるので、霧吹きで湿潤化させながら作業をします。
解体箇所の廻りは足場シートで囲うことが望ましいとされています。
掲示
現場には事前調査の結果を掲示する必要があります。その他にも立ち入り禁止の表示など4つの掲示物をA3以上の大きさで見えやすい位置に掲示します。
装備品
RS2またはRL2という特別な呼吸用保護具(マスク)を付け、保護メガネをかけます。レベル3建材の場合、保護衣は推奨ですが、付着しにくい素材の作業着を着る方が良いようです。
集積・処分
石綿(アスベスト)含有建材とその他のゴミに分別し、コンテナ・フレコンバッグなどに入れます。飛散しないようにシートで養生して集積しておきます。
現場からの収集運搬は石綿含有産業廃棄物を取り扱うことが出来る業者にて行います。
清掃・確認
足場の上や、犬走りなどに端材が落ちていないか確認清掃します。解体・改修箇所に取り残しがないか確認をします。
渡邊智仁
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